シロアリ駆除会社の駐車場にて

数年前のことだが、

とあるシロアリ駆除会社で商談をしていた時のこと。

低いパーテーションを隔てて、

顔にある無数のシワがいかにも現場主義的なイメージを放つ高齢の男性が、

誰かと話していた。

話している相手はパーテーションの磨りガラスで良く見えないが、

どうやら採用面接をしているようだ。

商談途中、隣の面接が気になって仕方がない。

というのも、面接を受けているであろう男の声があまりにも小さいからだ。

面接官の表情を横目で見ると、険しいようにも見える。

いや、元々このような険しい顔なのかもしれない。

商談が終わり、私は帰ることとなった。

立ち上がり、面接を受けている男の顔を一瞥した。

イメージ通り、痩せ型でいかにも覇気がないタイプだ。

面接の結果が気になりつつも私は事務所を出た。

会社は1階が駐車場になったいわゆる下駄履き型の建物となっている。

駐車場へ降りると、ボロボロの軽自動車の助手席に赤ちゃんを抱いた女性が座っている。

直感的に、今面接を受けている男の家族だと思った。

野次馬根性をどうにも止められなくなってしまった私は、

自分の車に乗り込むと、正面にあるボロボロの軽自動車を凝視するわけでもなく、

いかにもさりげない感じで眺めていた。

それから数分経って、

痩せた男が2階から降りてきた。

そして男が車内に乗り込んで数秒のことだった。

助手席の奥さんと思われる女性が顔を覆ってうずくまってしまった。

 

彼女は号泣していた。

 

男の表情はうまく読み取ることができない。

そしてボロボロの軽自動車はその場から走り去っていった。

 

あの涙が喜びの涙だったのか、

悲しみの涙だったのか、

ただそれだけが気がかりでずっと心に残っている。