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人生で一回だけ怒鳴ったときの話

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人生の中で腹の底から怒鳴ったことってありますか?

(子供に対してと自己啓発セミナー除く)

案外ないですよね、怒鳴ることなんて。

 

僕は3年ほど前に初めて怒鳴りました。

知らない人にです。

 

会社の後輩であるM田くんと焼鳥屋さんでいつものように飲んでいて、

その後、お知り合いが経営するバーへ移動しました。

そこで数杯飲んで、タクシーを呼んでもらい、

再度、先程までいた焼鳥屋さんまで戻りました。

よく覚えていないのですが、翌日なんらかの支払いがあり、

僕の財布には20万円ほどの現金が入っていました。

「大金があるので財布をなくしてはいかん」

引き寄せの法則なのかマーフィーの法則なのかわかりませんが、

結局、そのタクシーに財布を忘れてしまいました。(泣)

タクシーが走り去るその瞬間に財布を落としたことに気づき、

「ヘイ!タクシー」と声を発するまでもなく、タクシーはブーンと行ってしましました。

”焦る僕 ほどける手 離れてく君”

そんなスキマスイッチ的な感傷に浸る間もなく、

慌ててさきほどまでいたバーの店主へ松Dくんが電話をかけてくれました。

数分後、そのタクシーへ連絡がつき、こちらまで持ってきてくれることになりました。

それまでの時間は概ね5分くらい。

助かったーと思いながらM田くんとそのタクシーを待ちました。

さらにそこから5分ほどしてタクシーが到着。

僕は運転手さんにお礼として、3,000円を渡しました。

トータル10分くらいなのでお礼はそれくらいでいいかなと個人的には思ったんですが、

どうやらそれが間違いだったようで・・・。

助手席のドアを開け、お礼をして行こうと思ったら、

運転手さんがこう言いました。

運「さっき本土から来た若者を乗せたが、彼らが財布を見つけて、中身を見ていましたよ!」

僕「あぁすみません〜」

運「財布の中身を見て、ああいっぱい現金入ってるって言ってたんですよ!」

僕「あぁ本当に申し訳ないです」

運「一瞬、彼らが財布から現金を抜いたけど僕が戻させたんですよ!」

僕「・・・はぁ、それはありがとうございます」

このあたりで3,000円では少ないということをこの運転手さんは言いたいのかなと思いましたが、じゃあいくらならいいのかという各論には、この流れからはなかなか行けません。

運「彼らはお金に困ってたみたいなので云々・・・!」

段々、ストーリーが出来上がっていくこの空気。

このままこの話を続けても後は、「不治の病」とか「リーマンショック」等、

色々なストーリーが出てきそうだなと思って固まってしまいました。

その時、松田くんがそっと助手席のドアを閉めてくれました。

「松田GJ!」

と僕が思った矢先、

今度は後部座席のドアが開いて、運転手さんが、

「本当は彼らは〜云々」とまた言い始めた時・・・。

 

「しつこいんだよ!」

 

とついに僕は怒鳴りました。

 

元々メタルバンドのヴォーカルであり、

大謝名のジェフ・テイトと呼ばれていた僕です。

声量は、それはもう地域に響き渡ります。

犬もワンワン言います。

小鳥たちもバサバサ言ったかもわかりません。

その後が衝撃でした。

運転手さんはニヤっと笑って走り去っていったのです。

川端康成の「化粧」という短編がありますが、

自分ちのトイレの窓が火葬場の裏側に面していて、

ちょうど、トイレから泣きじゃくっている女が見えます。

散々泣きじゃくった後、

 

”彼女だけは、隠れて化粧に来たのではあるまい。

隠れて泣きにに来たのにちがひない。

その窓が私が植えつけた女への悪意が、

彼女によつてきれいに拭い取られていくのを感じてゐると、

その時全く思ひがけなく、彼女は小さひ鏡を持ち出し、

鏡ににいつと(ニィっと)ひとつ笑ふと、

ひらりと厠を出ていってしまった。

私は水を浴びたやうな驚きで、危うく叫び出すところだつだ。

私には謎の笑いである。”(川端康成「化粧」)

 

全くそれと同じようにタクシー運転手の笑いが僕にとつても謎だったのです。